

『ギガントマキア』は、ダークファンタジーの金字塔『ベルセルク』で知られる三浦建太郎氏が、1989年の『ベルセルク』短編発表以来、実に24年ぶりに描いた完全オリジナル新作です。2013年から「ヤングアニマル」で短期連載され、全6話・202ページが掲載されました。『ベルセルク』を一時休載しての連載だったため当初は批判もありましたが、蓋を開けてみると『ベルセルク』とはまったく異なるテイストの作風で読者を魅了しました。
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三浦氏は本作の帯に「脳細胞が老いる前に、やっておかねばならないことが在る!!」と記し、自身の創作意欲を表現しました。千葉県出身で日本大学藝術学部美術学科を卒業した三浦氏は、1985年にデビューし、一時期は『はじめの一歩』の森川ジョージ氏のアシスタントを務めたこともあります。残念ながら2021年5月6日に急性大動脈解離のため54歳で逝去されましたが、その画力と独創的な世界観は多くの漫画家に影響を与え続けています。
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物語の舞台は、数億年に一度繰り返される地球規模の大災厄の後の荒廃した世界です。主人公は筋骨隆々の男・泥労守(デロス)と、彼の頭に乗る謎の少女・風炉芽(プロメ)の二人組。二人は果てしない砂漠を旅する中で、聖虫族(スカラベ族)と呼ばれる亜人族に捕縛されます。
参考)https://younganimal.com/series/53842c89f5fd9
亜人族は人族の帝国によって長年虐げられてきた歴史があり、デロスに激しい敵意を向けます。聖虫族の英雄・雄軍(オグン)とデロスは一騎打ちを繰り広げますが、デロスは相手の攻撃を全て受け止め、古代格技「烈修羅(レスラ)」で雄軍を倒します。しかし相手にトドメは刺さず、フェアな戦いによって互いに尊敬の念が芽生えるのです。その直後、神話の巨人「多位担(タイタン)」を擁する帝国軍が聖虫族の聖地を襲撃し、巨人戦争(ギガントマキア)が始まります。
参考)ギガントマキア(漫画)- マンガペディア
泥労守(デロス)は、特別に頭の回転が速いわけでもない、どちらかといえば鈍くさい性格ですが、筋肉隆々で体は非常に丈夫です。かつては殺し合いが日常の闘う奴隷でしたが、現在は誰も殺さない「烈修羅(レスラ)」を自称しています。彼は「烈爽(レッソー)」という概念を体現し、殺し合いをエンターテインメントに変えることで、観衆まで巻き込んで禍根を残さない戦いを実現します。
風炉芽(プロメ)は幼い外見に似合わない達観した言動でデロスを導く少女です。体内の「峰久為流(ネクタル)」という物質を分け与えることで他者を治癒できる特殊な能力を持ち、触れるだけで傷や疲労を回復させます。しかしネクタルを生成するたびに彼女の身体は小さくなっていきます。彼女はデロスと契約関係にあり、より高度な神秘性のある機械的存在であることが示唆されています。二人はプロメが生成するネクタルによって合体し、身長53Mの巨人「轟羅(ゴーラ)」に変身できます。
参考)ギガントマキア ネタバレ感想レビューまとめ
本作の世界は数億年に一度の周期で大災厄に見舞われ、人類文明が滅んだ遠い未来が舞台です。人間がかろうじて文明を保っていられるのは、旧世界の遺産である「巨人の肉片」のおかげで、神に近しい巨人は肉片になってもなお強い力を持ち、砂漠に自然を育む源となっています。
帝国軍が操る巨人「多位担(タイタン)」は、「峰綸保主(オリンポス)より賜った」とされる生物兵器で、念者(オラクル)と呼ばれる役職の者がテレパシー的な能力で操作します。これに対抗するため、デロスはプロメと合体して巨人「轟羅(ゴーラ)」に変身します。轟羅は超靭な炭素繊維とスピドロインにより編み上げられた膨大な筋肉、硬度18の超鉱オリハルコンの骨格、神秘のネクタルがたぎる血潮を持つ、身長53Mの白亜の巨躯です。
漢字で当て字された固有名詞の数々にギリシャ神話の影響が見られ、タイトルの「ギガントマキア」も、オリンポスの神々と巨人族ギガースが宇宙の支配権を巡って激突した神話が元ネタです。過酷な環境に適応した生物たちも特徴的で、甲虫使いは巨大化した虫を操り、帝国は大タコを軍事利用し、通常は極小生物のクマムシですら熊のような大きさまで進化しています。
参考)ギリシャ神話:宇宙の支配権を巡る大戦(ギガントマキア)|Ca…
本作は2014年7月29日に白泉社から単行本が発売され、価格は600円+税でした。現在はジェッツコミックスとしても刊行されており、電子書籍版も購入可能です。読者からの評価は画力に関して圧倒的に高く、「セリフなしで画だけで魅せる画力で読者を魅了するパワーのある作品」「緻密に描き込まれた筆致が美麗」と絶賛されています。
参考)『ギガントマキア』|感想・レビュー・試し読み - 読書メータ…
ストーリーについては賛否が分かれており、「非常に緻密に描き込まれた筆致が美麗でベルセルクでは描ききれなかった世界観が余すことなく炸裂している」という高評価がある一方で、「到底分かりやすいとは言えない」「巻数の短さと突然放り込まれて後追いで説明される世界観に必死で食らい付きながら読む漫画」という意見もあります。個人的な評価として「点数84点」をつけたレビュアーは、画力を☆5つ満点、設定と没入感も☆5つとしながら、ストーリーは☆2つと評価しました。
参考)ギガントマキアの感想・レビュー(ネタバレ非表示)|漫画の感想…
本作最大の特徴は、三浦建太郎氏がダークファンタジーの巨匠でありながら、あえてプロレスをモチーフにした点です。デロスが使う「いにしえの格技」は、サソリ固めやブレーンバスターなど明らかにプロレス技であり、この格技の使い手は「烈修羅(レスラ)」と呼ばれます。
デロスは相手の攻撃を避けずに全身で受け止め、フェアな戦いを貫きます。彼が体現する「烈爽(レッソー)」という概念は、自分や相手だけでなく観衆まで巻き込んで闘いを魅せることで、殺し合いをエンターテインメントに変えてしまう革新的な思想です。これは憎み殺すことが命のサイクルに組み込まれた不毛の世界において、禍根を残さず全身全霊でぶつかり合い、わかり合う方法として描かれています。
一部の読者からは「ストロングスタイルなプロレス&大巨人ファイト」「画力が凄まじく、設定がめちゃワクワクさせられる偏差値低めな深みゼロの迫力押し漫画」という評価も見られ、シリアスなベルセルクとは対照的に、熱血バトルエンターテインメントとしての側面が強調されています。巨人同士の戦闘も「古きよき特撮で親しまれた怪獣プロレスがごとき、迫力満点のバトル」として描かれており、昭和ショープロレスの大技中心の戦闘スタイルが作品のリアリティラインに独自の色彩を加えています。
参考)感想と見所紹介『ギガントマキア』ベルセルクの連載を休載してま…
『ギガントマキア』は現在も単行本1巻のみで完結しておらず、続きが気になるラストで終わっています。Yahoo!知恵袋での読者アンケートでは「続編を期待しますか?」という質問に対し、「続編に期待しません。まずは(ベルセルクの)完結を望みます」という回答が見られました。一部のファンは「もしかしたら続きの構想があったのかも知れません」と推測していますが、三浦氏は2021年に逝去されたため、本作の続編が描かれる可能性は非常に低いと言わざるを得ません。
参考)三浦建太郎 - Wikipedia
しかし三浦氏の遺産は形を変えて継承されています。未完となった『ベルセルク』は、三浦氏の親友で生前に最終回までの展開を聞かされていた森恒二氏の監修のもと、弟子が所属するスタジオ我画の手により2022年6月から連載が再開されました。この前例があるため、将来的に『ギガントマキア』も同様の形で続きが描かれる可能性はゼロではありません。
三浦建太郎氏の作風については、賀来ゆうじ氏(『地獄楽』作者)が「自身の原体験だと語る、三浦建太郎先生への憧れと愛」を公言するなど、多くの漫画家に影響を与え続けています。『ギガントマキア』は短編ながら、三浦氏が「脳細胞が老いる前に描きたかった」世界観を詰め込んだ意欲作であり、その緻密な画力と独創的な設定は、今後も多くの読者とクリエイターに影響を与え続けるでしょう。
参考)https://dic.pixiv.net/a/%E3%82%AE%E3%82%AC%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%9E%E3%82%AD%E3%82%A2(%E4%B8%89%E6%B5%A6%E5%BB%BA%E5%A4%AA%E9%83%8E)
ヤングアニマルWeb公式サイト(全話無料試し読み可能)
公式サイトでは『ギガントマキア』全話を無料で読むことができ、三浦建太郎氏の圧倒的な画力と独創的な世界観を存分に堪能できます。